水鏡文庫

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みずいろのきみ

 

ぼくには、なにもなかった、はずで、なにものにもなれない、はずで、生きているなんてうまくできない、はずで、そういうものだと、そういう、はずで……

 

ぎりぎりの月を眺めては、きみを殺す。

 

きみはいつものように、柔らかかった。きみの頸がぽきぽきと音を立てているのに、ぼくは知らんぷりして手に力を込めていく。ぼくは息を止めて、きみの頸だけをみつめていた。生きていくことは怖いのに、うつくしくて、嫌気がさしてしまうくらいに。きみは人間だから、嫌いだ。きみは、人間なんだ。ぼくは、人間になれていない、人間のなり損ないで、だから、ぼくにはきみが眩しすぎて、息ができなかった。

 

みずいろ、雨、ピンク色の傘しか持たないきみがなぜだかBURBERRYのチェック柄の傘を持っているものだから、不思議で仕方なかった。社会に飲み込まれちまった、きみの傘は、フリルのピンク色の傘ではなく、社会に馴染む、ぼやけたBURBERRYの傘だった。きみは、みずいろのきみが、ぼやけて融けて、透明になっていく。透明になったきみは、やわらかい微笑みを湛えながら、中央線に飛び込んだ。

 

きみの死体は、うつくしい。

ぼくは、うつくしい死体になるために、生きているのだよ。

 

きみの白い頬を撫ぜる。きみは唇をわななかせて、なにか言っている。でも、ぼくにはきこえない。必死にききとろうとしているのだけれど、なにもきこえない。きみは、ぼくを好きだとそういったんだ。ぼくも、きみのことが大好きだった。だのに、きみはいなくなってしまって、ああ、きみはぼくのなかの、自己愛に過ぎなかったのだと知る。

 

生きていますか。

私は社会にもまれながら、黒いりぼんのバレッタとピンク色の傘を忘れずに、生きています。あなたにお手紙を出すなんて、はじめてのことかもしれません。それでも、私はどうにか生きていようと思えているのです。死のうとしたことは何度もあったけれど、生きていてよかったこともあるのです。私はいま、誰かのために仕事をしています。誰かに必要とされているのです。死ぬわけにはいきません。でも、自分が作って、作り上げてきたこだわりを、壊したくはありません。ですから、今日も、ピンク色ではないけれど、お気に入りの黒いりぼんバレッタを髪に付けています。私は、こういう、人間なのです。安直で、単純かもしれないけれど、きっといつかよくなるはずです。

 

あなたをあいしています。