水鏡文庫

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きみのにじいろと目が合った

下り坂を猛スピードで走っていく自転車を坂の上から神様みたいに見つめながら、それがぶっ壊れるのを眺めていた。はじめはゆっくり下っていたはずだったのに、いつだかふたつの足は縺れてバランスを崩していく。その自転車に乗っているのはぼくだ。そして、…

可哀想

通勤ラッシュの人混みに揉まれながらみんな死ねとか考えてそのみんなにはもちろん自分も含まれているわけだけれども殺意があらゆる方向に向きまくっていても結局なんも変わらなくてささいな変化さえ全部自分のせいだとしか思えなくなるとかいう最低最悪のル…

ラストノート

自分を見失ったとき、生きてる価値が分からないとき、辛いとき、自信を取り戻すための何かが欲しかった。自分だけ透明な箱に入れられて、周囲から隔離されているかのように感じてしまうとき、私はこんなことができる人間なんです、って誇れることが、なにか…

夏のせい

すきなひとに絶望するなんて、こっちが勝手に理想を押し付けて気持ち良くなっていただけだって、ありありと思い知らさせる。ぼくの絶望を歌にしてくれていた、ぼくの代わりに叫んで暴れて、こんな世界おかしいよって、そういってくれたあのひとはもう、いな…

やるせなさ

さいきん、あまりにもやるせないことが多くて、もはや笑うしか方法なくて、へらへらいきてたら、ふつうにおかしくなっちゃってるのに、気付けてなかったみたいだ。耳鳴りが酷くて耳鼻科に行って、でも耳に異常ないから、精神的なものらしくて、あああってな…

嫌い

身体より大きいものを抱えて、へらへら笑って生きるしか方法がわからなかった。いつもそうだった。ひとより抱えてるものが、デカければデカいほど、すごいのだと思い続けていた。逃げ出さないことが、何よりもいちばん正しいのだと、いまでもすこし思ってし…

うそつき

気が付いたら、私がどこにもいなくなっていた。 愛されたかった。嫌われたくなかった。そのくせ、ひとから好意を向けられることが怖くて、それはほんとの私じゃないから、きみの見ている私は、たんなる幻想のなかの女の子でしかないのだと知ってほしくてたま…

つめたい

祖母が死んだ夜に、弟となにがおかしいのかわからないくらいのくだらないこと言い合って、こんなことほんとうにくだらないのに、笑うしか方法がなくって、笑えてしまう自分に嫌気がさしたりして、どうしようもなかった。祖母の遺影は、私とのツーショットら…

繕い

取り繕ってるようにみえているのだろう。必死に生きているつもりだった。どうにか継ぎ接ぎのぼくで間に合わせることができるほど、かなしいことに、ぼくはかしこくはなかった。凍ってしまったミネラルウォーターは、ぼくののどを潤してはくれなかった。役に…

蒼い夜

深夜3時の病棟の廊下は真っ暗だった。ぼくしかいなくてだれもいない。心地よい。病室から見える新宿は今日もかなしくなるくらいにきれいで、ぼくはここからでられないのに、夜景にとけてなくなりたくなった。 夜の新宿が好きだ。キャッチのおにいさんをピン…

堕天使

ぼくのまえにあらわれたうつくしい天使は、じつは、ぼくの自己愛にすぎなかった。天使はいつまでも、ぼくの心に居座って離れなかった。ぼくはぼくのことを愛せないから、かわりにぼくのなかの天使がぼくを愛するのだ。虚構にすぎなかった。そんなことは、わ…

いるかの話

わたしが死んだら、彼もともにいれてほしい。わたしの涙を吸い取ってくれていた彼は、いまも押し入れから、わたしの姿を見守っている。 わたしは、ちいさいころからいるかという生き物がだいすきだった。ながい入院の間の外泊でみた、水族館のいるかショーは…

盗まれたあの子

生きていてくれてよかった、精神科の主治医が4ヶ月ぶりにぼくに会って開口一番そう言った。ぼくは、両目から涙を垂らしていたことを、彼から差し出されたボックスティッシュによって知った。ぼくはずっと、だれかに存在を肯定されたかったのかもしれなかった…

きみとは運命

運命なんて、信じないし、運命なんて、諦めなきゃいけないときだってあるし、誰にもわからないようにドブ川に棄ててきたぼくの抜け殻なんかを、だいじにしてるちょっと頭のおかしいきみにも、運命はあるんだろうな。たぶん。 絶望的な愛と、絶対的な正しさは…

深夜の病棟

うまれてこなければよかった、と繰り返しつぶやくぼくにきみは、うまれてきた意味はかならずあるはずだと、そういったね。ぼくは、必死に探したよ。きみのいったうまれてきた意味というものを。けれど、それはどこにも見当たらなかったんだ。警察にきいたら…

みずいろ

拝啓、みずいろのあなたへ みずいろが好きだ。 みずいろはぼくのいろだった。いつでもぼくのいろだった。ぼくだけのいろ、ではないけれど、たしかにぼくのいろだった。アイスキャンデーのみずいろ。海のみずいろ。カシャカシャしたウィンドブレイカーのみず…

おわり

生きていることがどんなに尊いかなんて、そんな腥い話をしたいわけではないんだな。ぼくはもっと、大空を泳ぐジンベエザメの話とか、海にきらめく流星群の話とか、ミルクを飲む子牛の可愛らしさとか、そういう話をしたい。 ぼくには、救いたいひとがいた。救…

贖罪と白鳥

井の頭公園のまんなかに、ぽっかり浮かんだ池。いくつもの偽物の白鳥が、わらっている。ぼくは、ここがすきだった。春には、満開の桜が咲いて、ぼくのこの居場所がなくなってしまうけれど。白鳥は、いつでも変わらない。あの娘と、校則をやぶった寄り道に、…

みずいろのきみ

ぼくには、なにもなかった、はずで、なにものにもなれない、はずで、生きているなんてうまくできない、はずで、そういうものだと、そういう、はずで…… ぎりぎりの月を眺めては、きみを殺す。 きみはいつものように、柔らかかった。きみの頸がぽきぽきと音を…

罰当たり

天井を見上げていつも通りのみずいろのイルカにほっとしながら絶望するくらいの朝に、生きてもいいなんていわれなくたって生きてしまう私がくだらないくらいに悲しくて手を握ったり開いたりしていたのに。 その手はしろい骨みたいで、しろい傷を隠さない半袖…

青の群青

ぼくは、きみになれば、愛されるのかな、きみになれば、きみみたいになれば、きみみたいに愛されるのかな、そんなのわからねえ。けども、きみとぼくはたしかにちがうのだから、ちがうひかりかたをしているのだから、一緒になってしまえば、ひかりはひとつに…

誕生

生まれたことを祝われるのは、なんだか虚しかった。それに対して、なんの感情さえもっておらず、感情がうごかされることもなかったのだ。ぼくは、生まれたくなかったから。でも、生きてきたことを祝ってくれるひとびとに出会い、ぼくは誕生日が好きになった…

桃色の月

そわそわする。ふわふわする。今日は全身を入念にマッサージしてはやく寝よう。できるだけ。はやく眠剤を飲んで、ベッドに入ろう。明日は大好きなあの子が、私に会いにやってくる。あの子からのメッセージに返信をして、瞼をとじる。あの子の笑った顔が浮か…

うお座

ぼくは海からやってきたのかもしれない。海と言ったって水色できれいなきらきらしたのではなくて鉛色のくらいくらい海から、その痩躯をやけに重そうに引っ張ってきて歩いてやってきたのだろう。水を吸った薄っぺらなワンピースはすっかり汚れてしまっている…

蒼い朝に

7センチのヒールをかつかついわせながら駅前を歩くおねいさんが踏んづけた知らないスーパーマーケットのチラシを拾い上げたぼくの行き先は何処にもなかった。おねいさんの浮腫んだしろい脚はとてもきれいでつよくてちょっとさびしい。ぼくはピンク色のカミソ…

道ばたの天使

氷のようなつめたさが身を貫いて、なんだか悲しくなるような冬の日に、道ばたできみと出会った。死にそうなうつくしさが、きらきらに光ってぼくの瞳を反射する。きっと、天使に出会ったのだった。だれも、信じなくていいのだけれど、本当にきみはぼくに訪れ…

自殺配信

死んじゃったらもうおそいでしょ死んじゃうまえにあたらしいせかいみたいよみたいよ 猫を轢き殺したトラックみたいなきみをあいしている もうなんにもできないの ぼくはなんにもできないの なんにもなれないの いきていることさえ できないのだからいきてい…

生きてるんだから

生きてるだけでいいんじゃなかったん パパからもらったクレジットカード10万使っても ママの財布から1万盗ってばれてもいいから パパもママもぼくを怒らない みえていない ぼくはとうめい 透明人間なんだよな ぼくだけ、ぼくだけはぼくを生きてるだけで承認…

愚か

久しぶりに、だいすきな『デミアン』を読んでいたら、こんな時間まで眠剤を飲まずに、熱中してしまって、しばらく眠たくならなそうだから、こんな露骨なタイトルの、文章をかこうかしらと思い立ったが、深夜2時30分すぎ。 ほんとの、ほんとはね。だいすきだ…

水色のいるか

夏なんてさっさと滅びろやなんて悪口ばっかいいながら歩いてたら本当に最近は涼しくて過ごしやすいですね、多分ね、それ私のせいなんですよ。この世界のわるいこと、全部、私のせいなんだって思っている、そんな自意識がデカい虫になってもぞもぞ動いて……っ…