水鏡文庫

Twitter→@Mizukagami100

夏のせい

 

すきなひとに絶望するなんて、こっちが勝手に理想を押し付けて気持ち良くなっていただけだって、ありありと思い知らさせる。ぼくの絶望を歌にしてくれていた、ぼくの代わりに叫んで暴れて、こんな世界おかしいよって、そういってくれたあのひとはもう、いない。きっとあのひとも、ほんとうはぼくの大嫌いな世界のなかのひとだったのかもしれないし、大嫌いな世界に育てられたから、大嫌いな世界のなかのひとに知らないうちになってしまったのかも、しれなかった。

 

扇風機が壊れていた。汗が身体から染み出てくるのがわかるくらいには、暑かった。きみの裸はつめたくて、いくら愛撫しても、声ひとつ出さない。きみのつめたい身体に舌を這わせ、くちびるを合わせる。ずっとすきだったあの娘は、いまぼくのまえで裸になっているのに、ずっとすきだったあの娘は、もういない。あの娘の、水色のセーラー服も、白い水着も。

 

なにもかも、何かのせいにできたらよかったのにね。誰かのせいにしたら、その誰かが傷付くことになるから。それは嫌だ。人間は人間を傷付けながら、生きているのかもしれないけれど、意図的に傷付けたくはなかった。生まれてきたのも、いじめられたのも、仕事でうまくいかないのも、病気が治んないのも、ぜんぶ、ぜんぶ、なんかのせいにできたら、ちょっとは楽になれるのかな。生きてると、知らないうちに必ず誰かを傷付ける。それが嫌だった。

 

私は認められたのだ!社会にとって価値ある人間で会社にとって価値ある人間で生きていても良い人間で尊敬されるような人間で素晴らしい人間でこの会社の一部であることが誇り高くて仕方がない。私の自己肯定感は就職に成功したことで格段に上がった。たとえ雇用形態が障害者枠であろうとお給料が安かろうと仕事が辛かろうとそれは何の問題でもなかった。その会社に勤めていることがその事実が私を人間にしてくれた。けれど、私は今それを失うか失わないかの瀬戸際に立たされている。なにかひとつに固執してはいけないのだろうが、私の価値は会社にしかない。もし失うことがあれば、私に価値はないので、死ぬしかない。いよいよ、本当に死ぬしかない。

 

リアルすぎてつまんねーな、水鏡文庫。最近、どうしちまったんだよ。水鏡、調子乗ってんの?自分の人生だけで、文章を書いた気になってんじゃねえよ。初期の文学的(笑)な感じ、今はほぼないよな。自分語りマジ痛いわ。水鏡、死ぬなら死ねよ。嫌いだし、気持ち悪いよな。

 

ぜんぶ、ぼくのせいにしていいよ。ぼくのせいで、それでいいよ。ぼくは、人間じゃないから、傷付かないから。

 

あ、いままでのこれ、ぜんぶ夏のせいだからな。夏のせいにしちゃえ!来月も生きて会うしかないな、生きてやるぞ、ばーか!

 

めちゃくちゃ生きると疲れるから、ほどほどに生きてこうね。あとおしらせ。これまでの「水鏡文庫」と、これまでの私の創作文章と、新作書き下ろし小説「人魚を飼う」をまとめた全210ページの文庫本『水鏡短編集』が2021年8月20日に出ます!やったね〜!無料で配布するので、欲しいよって方がもしもいたら、こっそり声掛けてくれると嬉しいです。

 

それじゃ生きて会いましょう。