水鏡文庫

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桃色の月

そわそわする。ふわふわする。今日は全身を入念にマッサージしてはやく寝よう。できるだけ。はやく眠剤を飲んで、ベッドに入ろう。明日は大好きなあの子が、私に会いにやってくる。あの子からのメッセージに返信をして、瞼をとじる。あの子の笑った顔が浮かんでは、やさしく消える。寝返りをうって、布団をかぶった。はやくあの子に会いたくて、走り出したくなるふたつの脚は、着圧ソックスを履いている。明日の私の脚がちょっとでもきれいでありますように。

機械的な朝イチの嫌いなアラームの音が、今日だけは愛しく感じた。めずらしくはやくベッドからおりて、低血圧ぎみのくらくらした頭をつめたい水で洗い流す。きらきらピンクのアイシャドウ、砂糖菓子のようなチーク、いつもよりも丁寧に魔法をかけて、造っていく。

あの子とお揃いのアクセサリーをはめて、お気に入りのお洋服に腕を通したら、ちょっとはやめにできあがっちゃいました、私。あの子に会いに行く、いつもよりすてきになっているはずの私。鏡の前で、グロスを塗ってから、ふたつに結った髪の毛を指先でくるくる整える。綺麗にまとまった髪の毛にちょっとうれしくなる。待ち合わせより、ちょっとはやいけれど、あの子を待たせたくないから、家を出る。

電車に乗って、20分。スクランブル交差点とピンクのイヤホン、それからアイドルソングと、あの子。私は、かわいいなんて、いわれたことなくて、素敵な女の子に、いつだって憧れていた。でも、あの子はかわいいを私にくれた。かわいいと言ってくれた。かわいいあの子が、私をかわいいと、そう言ったのだ。嬉しくて、しあわせで、いまの私は、かわいくいていいんだと、そう思えるようになった。おそろいのポーチにつけた、あの子がくれた色違いの三日月モチーフのチャーム。私は桃色。

みどりの窓口の前に、あの子が立っている。私のことを、私のことだけを待っているあの子がいる。色が陶器みたいに白くて、やさしい顔をしたあの子が、私を見つけて、微笑むまであと10秒。

 

不定期更新でした。あの子がだいすきな私のお話しです。