水鏡文庫

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蒼い夜

 

深夜3時の病棟の廊下は真っ暗だった。ぼくしかいなくてだれもいない。心地よい。病室から見える新宿は今日もかなしくなるくらいにきれいで、ぼくはここからでられないのに、夜景にとけてなくなりたくなった。

 

夜の新宿が好きだ。キャッチのおにいさんをピンクのイヤホンで遮断して、しらないおねえさんの名刺を踏みつぶして、大切なチェキを護るように握りしめて、歩いた青い夜のことを、ぼくはきっと忘れないだろう。

 

ぼくは、げんきだったころがあまり思い出せなくなった。去年の夏頃からずっと入退院しているぼくは、身体が衰弱しているのをたしかに感じていた。夏に出会ったやさしいおねいさんは、去年の冬に死んでしまった。クリスマス前のことだった。車で迎えにきてくれた父親と、声をあげて泣いた。寒い青い夜のことだった。

 

ぼくは、げんきだった。でも、それがとおくはるかむかしのことのようで、家族に励まされても、素直に受け取れなくなって、ぼくは、げんきだったころのぼくを、感覚で取り戻そうと思っている。

 

きみが悪い。こんなぼくのことを嫌いにならないきみが悪い。こんな最低なぼくに、微笑みを向けるきみが悪いんだ。ぜんぶ、きみのせいなんだ。ぼくは、これっぽちも悪くない。きみが、ぼくを好きだなんて、きみは愚かだ。こんなに最低なぼくを好きだなんて、おかしいよ。そんなの。いくら傷付けても、傷付かないきみがおかしいよ。ぼくのために、死ぬなんてそんなのないよ。なんで死んじゃったんだよ。やっぱりきみが悪いよ。

 

ずっと救われていた気がしていたひとがいた。勝手に救われていたのだった。ぼくの勘違い。でも、救われていたぼくを消すことはできない。アカウントを消しても、救われていたぼくは消えない。あなたのつくるものが、ぼくは好きだ。ぼくは、救いたいおまえじゃなかったから。けれど、勝手に救われた気になるのは、もうやめよう。裏切られて、勝手にかなしくなるのはもうごめんだった。ぜんぶ、ぼくの勘違い。チェキは、引き出しの奥にしまった。あなたは、ぼくの神になるのがいやだったんだね。人間でいたかったんだろうと、思う。

 

どうでもいいことばかりが、頭に浮かんでるので消化したくて不定期に更新してしまった。この部屋からは、夜景がよく見える。左手首の白い傷が、窓に反射した。今夜も、蒼い。

 

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