水鏡文庫

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きみとは運命

 

運命なんて、信じないし、運命なんて、諦めなきゃいけないときだってあるし、誰にもわからないようにドブ川に棄ててきたぼくの抜け殻なんかを、だいじにしてるちょっと頭のおかしいきみにも、運命はあるんだろうな。たぶん。

 

絶望的な愛と、絶対的な正しさは、この世界に存在しやしないのに、どうしてもあるような気になっているぼくは、いつまでもここにとりのこされて、ひとりぼっちなんだろう。ひとりぼっちは、さみしくない。ぼくは、さいしょからひとりぼっちだったから、きみと会えたことが、すばらしくうれしくて、しかたがない。きみと会えても、結局はひとりぼっちなんだ。人間なんて、みんなひとりぼっちなんだから、ひとりぼっちはこわくない。

 

あのひとにもらった花束なんか、棄ててしまえ。ぐちゃぐちゃにしてしまえ。きみには、その資格があるんだ。風に負けた白いシーツが、ボロいアパートの2階で揺れているのを、じっとりとにらんだぼくは、電柱に飾られたしおれ気味の花束を、おもいきり地面にたたきつけた。花束は、ばらばらになってすぐに空気に溶ける。海に行ってみたい。

 

最低、最悪、大っ嫌い!ぼくを人間らしくした、きみが憎い。ほんとは、大大大すき。ほんとはね。ひみつだよ。

 

渋谷のでかいスクランブル交差点をぼうっとながめていると、ピンクと黒の少女たちが、きらきらときらめくかばんをうでからさげて、こんなにも寒いってのに、ふとももをさらして歩いている。歩くのにあわせて、そのふとももが揺れているのをぼんやりみつめながら、私はじぶんの痩せたしろいふとももを、引っ掻く。爪にくい込んだために、ついてしまった爪痕をやさしく撫でながら、しろいシーツに繰り返し爪をたてた。しろいシーツは、いつも通りの音をたててゆがんだ。痕もつかず、たんにしろいだけのシーツは、いつまでも私を受け容れていた。

 

忘れたらいいのだとおもうのだけれど、日々の忙しさにかまけて忘却できたならばいいとおもうのだけれど、私は貴方を忘れたくなくて、ずっと覚えていたい。私は、運命を信じたかったのだとおもうけれど、叶わない運命なんてたくさんあるんだよな、私は貴方の運命ではなかったのだろうから、そういうとき、運命は叶わない。運命に、叶うも叶わないもあるのかって?私は、運命を信じない。私は、運命を信じたくない。私は、創ってきたから。壊して、なおして、創ってきた人生を、運命なんてひとことで片付けられちゃあ、たまったもんじゃない。だけど、私はきみとは運命。