水鏡文庫

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追憶のきみ

あついなつ、なついあつさに人間は融けて、アスファルトに貼り付いている。気持ち悪い。気持ち悪くて、どうしようもなく愛おしい。人間は、私にとって、はじめから、ずっとそうだった。だから、私は人間になりたかった。

 

就活のときの私は、くるくるのデジタルパーマをかけたじまんのピンクがかった茶色いロングヘアも我慢していた。だけど、ヘアスタイルだけは許せなくて、まっすぐにした焦げ茶色の髪をいつもどおりのハーフアップにしていた。もちろんそこに、ピンク色のリボンはつけられなかったけれど、その代わり黒い小さなリボンのバレッタを付けていた。ピンクのリボンではないけれど。髪ゴムを剥き出しにしたくは、なかったから。自分の譲れないものを、すこしづつけずって、どうにか自分を保っていたんだなあ。

 

普通ってなんなんだよ。普通、普通、って気軽に言うけど、普通ってなんなのか、考えたことあるのかよ。普通なんて規範、すぐに壊れてしまうような、脆弱なものなのに、そんなものに縋るくらいなら、すべてやめちまったっていい。

 

私のなかにいるボクを呼び寄せて内緒話をする。

 

夕焼けが綺麗なときも、みじかい小説をかくときも、思い出してしまうのは、きみのことだよ。

 

生きていたことは、生きていることは、ほんとうにすごいんだよ。生まれたことが、すごいかは知らんけどさ。きみが、きみ自身が、生きていたこと、素晴らしかった。

 

綺麗に生きていきたいけど、そううまくはいかないから、幻想をはがしても、現実のかたい壁にぶつからないように、優しくつつみこんで、生きていきたい。なんとか、息をしていたい。

 

現実なんてそこらじゅうに転がっている。蹴飛ばしてみても、おもしろくない。だけど、かわいく生きていたい。

 

きみは元気かい。厳しい手術のあと、やっと歩けるようになって、病院の窓から外を覗いている、きみへ。白い点滴のパックがゆれて、溶けた。追憶のきみへ。