水鏡文庫

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きみになりたい

 

ぼくは、きみに、なりたかった。かわいくて、一生懸命な、きみに、なりたかった。けれど、なれなくて、だって、きみはぼくじゃなくて、ぼくはきみじゃないから、でも、なりたかった。それに気がつくのが、あまりに遅すぎた。ぼくは、きみにきらわれた。それは、あの夏のことだった。

 

夏服の、半袖のブラウスが揺れて、そこから骨みたいに白くて、痩せっぽちの腕に、手首があって。そこには、たくさんの絆創膏が、べたべたとはられていた。じぶんでつくった、悪いじぶんを、罰したくてつくった、あのあかい傷は、いまはもうしろくなっていた。けれど、あの夏の日につくった、あの傷はいつまでも、目立たなくなっても、いつまでも、刻まれている。

 

きみにとってわたしがうんめいじゃなくてもわたしにとってたしかにきみはうんめいだったんだよ。

 

愛している、重さ。21グラム。

 

ママの財布から抜き取ろうとした1万円の感触は、いつまでも、ぼくの手からすり抜けなかった。

 

きみになれたら、きみのことぜんぶ、わかって、嫌になっちゃうかも、しれないな。

 

永遠は、いつまでもそこにあって、それでいて透明で、すり抜けてしまうようなもの、ずっとなんてなくて、そこには、おわりがみえてるけれど、永遠なんだよ、何言ってるのか私もわかんないけどさ。永遠は、尊いから。

 

最近、しあわせになってほしいなって思うことが多くて、でもそれってめちゃくちゃ無責任じゃねとかいろいろ思ったりしたけど、でもさ、しあわせになってほしいなって祈ることはうつくしいよ、うつくしい。うつくしくいたいな。

 

きみが焦がれた青空も、ぜんぶ、ぼくが水色に塗っていただけだったって知ったら、悲しむかしら。きみがみている景色、うつくしくあってほしくて、それだけだったんだよ。

 

こわいゆめをみた、とってもこわいゆめだった。どんなゆめだったかは、すっかりわすれてしまって、ただ、こわいというぐるぐるした感情のうずまきにのみ込まれて、身動きが取れなくなっているような、ゆめ。

 

私は、物語のなかで大切な人間が、幸福な死を与えられることほど、すばらしいものはないと、そう思っている。

 

あのときのきみへ

わたしは、たしかにいきています。100年経ってもこの傷は、わたしを罰したくてつくった、あの傷は、その証拠です。

 

きみも、生きていてね

 

わたしは、生きて痛いな、ちょっと、痛い 

だけど、生きていたいから、愛しています