ぼくのぬけがら
私の存在が、そこにあることが、ひどく不安で、今すぐ透明になれたらいいのに、クリームソーダのちいさな泡みたいにしゅわしゅわ消えてしまえたら、どんなにいいかなんて考えて、たくさんの人ごみをかきわけて、かきわけて、歩く。泣いていてる私を、誰も気に留めない、この街がどうしようもなく好きだった。
スクランブル交差点を、ピンクのイヤホンから流れるアイドルソングだけを生命線にして、泣きながら歩いたって、私が透明になれたみたいだ。透明になれたら、きみが私を知らないところで、しあわせにしたいんだ。
きみは、きみのぬけがらを食べるかな。人間がもしも、脱皮する生き物だったとして、ぬけがらを食べるのと、そうでないのといると思うけれど、きみは、どっちだろう。
私は、ぬけがらを食べるよ。
それが、どんなに不味くても、きっと、泣きながら、吐きながら食べるだろう。
私は、私以外に私を遺したくないから。私の影ならば、私だけでいいんだから。
死にたかった、ただそれだけ。
私だけを、私を、愛して欲しかっただけなのに。そんなこと、どうしたってできるわけないんだ、愛しているのは、私だって、たくさん愛してしまっているから。
あのときの、ぼくの失敗が、ぼくをじわりじわりと追いつめていって、ぼくが死んじゃっても、どうかぼくを責めないでいてほしいよ。
きみの顔をみると、きみがどうしようもなく愛おしくなって、ピンクのタオルケットにくるまりながら目を瞑って、だいすきだよ、手を繋ぎたいよ、私をすきだと言ってよって、言葉を口のなかで転がしてしまうだけだったね。
今日も、いちにちじゅう、どこまでも沈んで行けるようなベッドのスプリングが、哀しく泣いて、たくさんねむっていた。ねむっていた。ねむっていた。暗い部屋に、カーテンだけがふわふわと動いて、ねむっていた私をくるしく照らしていた。私は、目覚めることなく、死んだようにふわふわと沈んでいった。
泡に、なりたい。
きみを愛したままで、私はこのぬけがらを食べてしまって、いなくなってもいいかな。
死にたくはなくて、ただ消えてしまいたいんだ。きみと逢えなくなるのは、つらくてくるしいから。だから、私は死ねなくなった。
悔しいだろ、生きていってやるんだよ!