水鏡文庫

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きみの掌がふるえている

 

だめになってしまった。

知らないきみの掌がふるえているのを、見てしまったから。もうだめだ、と思っていたら、ぐにゃりと白い壁が歪んだ気がした。夢だったのだ。

 

だめになってしまった。

家庭教師したくて7月くらいからずっと探しているんだけど、なかなか上手くいかず、流されてここまで来てしまった。父親に、お金が欲しいのならいくらでもやるのに、どうしてバイトをするのかって聞かれて、くるしくて息が吸えなくなった。周囲の酸素が、なくなっていく。お金じゃ、私の心は修復不可能だし、過去も弁済できない。買い物依存症になったって、心の隙間なんていつまでも埋まらなくて、小さな穴が空いて、そこから何かが少しずつ漏れ出している。ふるえていた掌は、私のものだった。

 

私は人間の真似事をしている。

 

私がいなくなったらしばらく泣いてくれるひとが欲しかった。私がいないことで世界が回りにくくなるくらい私は私の影響を遺したかった。曾祖母が死んだとき、案外みんなすぐ忘れて楽しそうにしていたから私は悲しくなってしまう。

 

人間なんて脆弱なのに、それがかわいくて仕方ないんだよ。純粋なんて神話さ。純粋って、きみがそれを決めることができるの?

 

いつものことが、とてつもなくくるしくて溺れたときみたいに息が吸えなくなるのは、きっと私が休むべきときなんだろうな。

 

夜は怖い。怖いから、眠れない。電気をつけていないと、眠れないんだ、じつは。机の蛍光灯を付けたままで眠る。だけど、ぼんやり起きたりするから、よく眠れるのは朝方から。お昼のほうが安心してぐっすり眠れるの。

 

私がほしいと思っているうちは、絶対に手に入らないのに、あきらめたりわすれたりしたころにやってくる、そんな人生だよ。

 

結局、仕事していても愛されたいのは私だ。愛することで愛されるかもしれないから、必死で愛している。愚かな人間未満が、先生なんて、今すぐに辞めろって誰かに囁かれた気がして、違うんだと声を荒げるしかなかった。

 

私の脚がガリガリでも、きみに物理的な迷惑はかけていないはずなのに、そこまで言わなくていいじゃない。私のうしろを、歩く知らないきみへ。

 

愛しているなんて、本当かな。